zanzibar 1-1. dec. 2003

ラジオからの軽快な音楽が、朝の気分の良い海風に乗ってサンパラのダイニングに鳴り響いている。軽快ながらもアフリカらしい躍動感に満ちたうねるようなリズムが強烈だ。音楽を丸ごと楽しむ彼等のポジティブなエネルギーがビンビン伝わってくる。調子良いスワヒリ・トークに乗せられて次々に最高の曲がかかる。朝飯後のだらけたムードの中で、網ベッドにグデェ〜ッと横になったまま、わしは今グッと来ている。ムネの中をグワッと鷲掴みにされ激しく揉みしだかれ動けないでいる。二度と聴けないだろうこの曲達を残さず脳裏に刻み込もうと、だらけた態度とは裏腹に意識は覚醒しまくっている。それにしても、あんな古めかしいボロラジカセから、なんでこんな凄い音が出て来るんだ!耳で聴くと言う次元のもう少し先の深いレベルで、音楽が胸に突き刺さる。トロピカルな味付けでコンパクトに体よくまとめられた、消費されるためのだけの音楽じゃない。耳に優しいだけの薄っぺらなリゾートソングなどとは訳が違うのだ。魂そのものだな、きっと。音楽が本来どこから来るべきなのかを 音楽そのものをもって教えてくれている。去年の夏休み、竹富島の八重山そば屋のおばちゃんが悲しそうに聞かせてくれた杉山清貴の音楽とも呼べない代物とは次元が違うのだ。普段はBEGINばかりを店のBGMにとラジカセで鳴らしているそのおばちゃんの店に来た杉山が、たまには僕のもかけてねと、BEGINとのレベルの違いにも気付かずに、ずうずうしくも自分のCDを無理矢理に置いて行ったらしい。余りにもそのCDが酷くてお店で流す気にならないと、困り果てた顔で話すおばちゃんの話しに、どれ程ダメなのかが気になって、じゃあ今かけてみようよと、クサイ物嗅ぎたさにも匹敵する、クサイ音楽聴きたさという下世話な好奇心でリクエストしたのだ。客のリクエストという心強い口実に、ちょっとだけよ!とカトちゃんのような事を言いながら、ミュージックスタート! すると、イントロから直ぐにそれと分かる勘違いリゾートサウンドで、辺りは嫌ぁ〜な感じに染められて行くではないか。降り注ぐ太陽の下で気分の良い竹富風情をズタズタに切り裂き、草木も生えないような荒廃したムードに包まれてしまった。八重山そば、ブルーシールアイス、シークヮサージュースにモンキーバナナ、鮮烈で開放感に満ちたついさっき迄の食後感も、オリオンビール生の心地良い酔いも、一気に風速5万メートルの濁った音風に吹き飛ばされてしまった。楽園やリゾートなどと言った切り口でしか、南の島を理解出来ない、理解しようとしないバカ者がこしらえた浅はかでしかない雑音に、おばちゃんが嫌がるのも無理ないと即座に納得。毎日おばちゃんが店でBEGINを流すのは、自分達の島を正しく愛する魂がちゃんと歌われているからであって、おしゃれな曲だのかっこいい曲だの癒されるだのと、音楽の上澄みをすくって薄めたような浅い奴の足らない音楽(便宜上こう呼んでやるよ)とは、レベルが違うのよ。作品のクオリティ以前の心意気や精神のステージの問題だ。能書きや知識はどうであれ、流れて来た音が陳腐極まりない事は確かだ。それは、おばちゃんの日々の態度に明らかに表れている。破廉恥に無遠慮に無理解なままグリーンカードを取得し、ハワイを拠点に音楽活動をするなどと戯けた野郎にまともな音楽が作れるわきゃない!南の島が好きなら好きで結構。わしも大好きじゃ。ただし、好きなら愛がなきゃ。愛がないから理解が生まれない。だから愛しているつもりが端から見ればただのストーカーにしか見えなかったりする。ハワイイの原住民は、日本人を始めとする先進国の人間に、もう来ないでくれと言っているのを知らないだろう!「わしらは観光産業で潤っても惨めなだけだ」と言い切る人達は大勢いるのだよ。本来のフラのステージである海や大地を例の帝国や観光客に奪われ、もはや理解の無いホテルの客の前で演じるしかない観光フラこそ、楽園の搾取の現場であり象徴なんだよ!輝く楽園で、捩じ伏せられ踏みにじられる人々がいて、そこに自分が加担してないなんてどうして言える。それを知った上で、どう理解し理解されるかを模索するのが、最低の礼儀だろ。愛した相手にそれすら出来なきゃやっぱりただのゴミ野郎でしかない。じゃなきゃケツの穴野郎、ひょっとすると蟻のト渡り野郎かも知れない。因みに二度目にハワイイと書いたのは、間違いではない。本来はこう表記するのが正しい。ハワイイ語ですら公には認められていないのが現状らしい。公用語は英語。とは言え、そう言うおれだって、ハワイイやタヒチなどの南大平洋のいろんな島に、いつかまた行きたいと思っているのだが、さてどのツラ下げて行けば良いものやら。自分も楽しく相手も気分良いって、どうすりゃ良いのかな?何も知らなきゃムネに引っ掛かるものは何もない分、底抜けに自分だけ、そう自分達だけが楽しめるのにね。う〜、朝からなんでまたこんな調子になっちゃうんでしょか?確か気分の良いラジオの話しだったはずだが。とにかく気を取り直して続けよう。気分は目下のところ最高なんだからね。なにしろ鷲掴みにされてグッと来てるんだからさ。

ダイニングの網ベッドに横たわって、ドルフィンツアーの迎えを待ち続ける。激しく杉山を糾弾しながらも、ベタな誘いに乗ってしまっているワタクシ。一応断っておくが、イルカに死ぬ程逢いたい訳じゃなくて、イッサが必死で誘うから乗ったんだよ、この話。だっておれは御蔵島でイルカツアーには本当に懲りたからね。とにかく酷い揺れでゲロの嵐だし、何隻もの漁船でイルカを追い掛け回すのが、あんまり気分良くない事だと分かったからね。正直イメージイマイチ。しかし、今日はそんな辛い思い出は隅っこにそっと仕舞って置いて、イルカツアーを心底楽しもうと思っているのだ。楽しまなきゃ勿体無いからね。しかし昨日と同じようにお迎えのバンは来ない。その代わり、お尻のお迎えが来たのでトイレにしゃがみ込む。景気の良い朝グソ&ミュージックとは裏腹に、また今日も定員オーバーで断られるのか?と暗雲がココロのドアをノックし始めた時、イッサの呼ぶ大声が聞こえてきた。「ワ〜ッ、ワ〜ッ!」と意味不明の大声でトイレから生存のサインを送ったのだ。

慌ててアイフルで、おれ様のナイーブ且つデリケートな黄門様を綺麗に拭き、お迎えのバンに乗り込んだ。他の客は、白人中年夫婦と白人男、そして明らかにそいつが購入したと思われる身なりの良い黒人女。平たく言えばケバグロセクシーだ。丁寧に編み込んだややこしいヘアスタイルや香水の臭いは勿論のこと、全身の毛穴から濃密なメスの匂いを健全なイルカツアーのバンの中に充満させている。如何にもといった雰囲気だ。前後に陣取った友達に成れそうもないこの二組のカップルの真ん中に陣取り、いよいよイルカツアーのスタートだ。

窓の外は、雨。さっき迄の青空は何処へ?回復するムードが感じられない。昨日と同じだとヤバイな。と、思いつつも半分心の中では、すでに諦めを決め込んだ。雨の中、適当に荒れる海で、御蔵島のときと同じような辛い強行軍か、建て前上、ポイント迄行って金だけ払わされて空しくトンボ帰りが、まあせいぜいそんなところでしょ。と、ここ迄書いて気が付いたが解説をしてなかったね。えぇ〜、今日のイルカツアーは、東海岸側を下って島の最南端のキジムカジと言う場所がポイントで、我がジャンビアニからは車で約1時間強。ヨーロピアンのバカンス客が多数訪れるこの島でも有名なアトラクションの一つ。以上、説明終了!雨の中、何台もの日本からのお下がりバンとすれ違いながら、軽快に進んで行く。そのすれ違う車の多くが、日本で走っていたそのままの姿で、つまりお店の名前とか電話番号とかまんま日本語で、なんだか日本の田舎道でも走っているような気分だ。蔵王のスキー場や黒ネコヤマト(黒く塗りつぶしてあるが、楕円の一部が明らかにネコのミミで笑える。)など、それぞれが第二の人生を異国の地で力強く歩んでいるようだ。正直、少し嬉しい。そして予定都通りポイントに着くなり、ワッと人が寄って来ていろんな担当者が勝手にフィンやマスク、ライフ・ジャケットなどを装着してくれる。その間も、キャッサバを食えだの、イルカのチープな木彫りは要らんか?とか、でかい貝はどうだとか、砂糖に蟻が集るように大騒ぎだ。お陰でというか何と言うか、アッと言う間に、シュノーケルマンが出来上がってしまった。おいおい、この雨はどうする気だ?みんなで降ってない振りか?

すぐ側のリゾートホテルで、天気待ち。他のツアー客も大勢いる。殆どがヨーロッパからのバカンス客だ。目の前の砂浜の先に鉛色の暗い空と、その色を吸い込んで同化した鉛色の無気味にうねる海が180°広がっている。為五郎似のツアーボス曰く、後30分で雨は上がり、うねりも止まると。天気も良くなりサイコーのコンディションが待ってるぞ!と、夢のような未来予想図を指し示してくれた。この大ウソつきめ!とてもじゃないがそれを信じる程、ボケちゃいないのだよ。退屈な待ち時間。海からの風が雨を含んでいて、Tシャツ一枚&海パンの臨戦体勢のおれを十二分に凹ませてくれる。なんと言うお正月であろうか!そんな中、車中一緒だった白黒エロカップルが寒いから車で休むと言って、そそくさとしけ込んで行った。それを聞いた為五郎とその一味は下品に腰を振りながら、「あいつら車で合体かぁ〜!」(たぶん)などと、嬉しそうに盛り上がっている。ったく。

1時間経過。状況変わらず。なのになのに、何故に出発なのか?相当に冷えてギブ・アップ寸前な状態で出発とは、やっぱりイルカツアーは鬼門だ。何故か素直に従う鈍感ツアー客に釣られてトボトボと出発の列に加わった。わざとらしく楽しそうに振る舞う為五郎。この野郎〜。潮が引いていて、船迄はかなり歩かされるようだ。何艘か停まっているイルカツアー用のボートの横に、大型のダウが戻ってきた。どうやら外洋での漁から帰って来たようだ。地元の人々で盛り上がっている。船から逞しい男達が1mはありそうな大きな魚を担いで嬉しそうに船から降りて来る。なんと言うシャッターチャンス。雨の中、両手をフィンやマスクで塞がれ、とても写真を撮れる状況ではない。漁の状況としては今迄で最高のダイナミックさなのだが、撮影は諦めるしかない。シッカりと眼ん玉に焼き付けるしかないみたいだ。すれ違った海の男に「ジャンボォ〜」と声を掛けると、大漁の充実感に満ちたイイ笑顔で「ジャアンボォ〜」と返してくれた。両手に掴んだ魚の重さが、伝わって来るようだ。

わしらの船は「DOLPHIN VIEW」と言うなんとも捻りのないそのまんまの名前。雨で濡れて乗り難いばかりか、床の木が腐ってて、ズボッと足が嵌ってしまった。大丈夫か?コレ。それでも、約15名全員乗り込みいざ出発!相変わらずの風雨にほんと盛り上がらんわ! 案の定、適度な荒波の中、船首に陣取ったツアーボス為五郎を海中へ放り出しそうになりながらも15〜25分程船を沖へ走らせると、ハコナマタタ号と言うなんとも客をナメた名前の船が浮かんでいた。ハコナマタタ、ザンジバルに着いて最初に乗ったタクシーの運ちゃんが、まず教えてくれたのがこの言葉だった。海外旅行の常套句、ノー・プロブレムと言う意味。確かに何処へ行っても良く聞く言葉だ。相手がこれを口にし始めたら要注意。額面通りにこの意味を受け取ると少々やっかいな事になる可能性は大だ。そんな人を食ったような名前を堂々と観光客用の船につけるとは。中々いいセンスだ。わしらより少し先に出た船のようだ。そうか、今日は我がDOLPHIN VIEW号とハコナマタタ号の2槽でイルカを追い掛け回す気だな。気が付けば、風は止み雨もほとんど上がっていた。まだまだ雲は暑いが、薄く途切れた隙間から希望の薄日が射して来た。それに気付いて一瞬ハッとした。ひょっとするとナメた名前の向かいの船は、寒さに凹んで縮こまっているおれにこう教えてくれているのかも知れないと。「向いの船のお兄さんよう、ガツンと一発楽しもうぜ!もうノー・プロブレムだろ!」なんてね。