パレード

小さな田舎街だが、それぞれの街角から着飾ったり仮装した子供達のパレードが街の中心を目指す。街の真ん中のステージでは、華々しい祭りの開幕宣言。それにつづく、トランペット。かっこ良く吹いてるおっさんは、昨日の夜の顔とは別人のように、かしこまっている。街の色んな方角から集まった子供達の群れは道路を埋め尽くし、更にそれをギャラリーがとり囲む。漫画のように、街の人間が街の真ん中に集合しているのだ。ホセのおっちゃんの誕生日を祝うためにだ。子供は、花になったり、カストロになったり、ピーターパンになったり、とにかく色んなモノになっていた。が、モチーフは、政治や歴史の人物、おとぎ話の登場人物、花など、どれもコマーシャリズムに毒されていない、素朴過ぎるものばかりだ。一番ショックを受けたのは、机で勉強すると言う仮装をやってのけた男の子だ。それが仮装なのか?と思ったが、撫で付けた髪や、マジックの口ひげを誇らし気に、大人っぽい顔でシブくキメル様は説得力満点だ。たくさん勉強していい国にするぜ!と言う決意が美しく滲んでいた。女の子の古典的なお姫様願望とは対照的に、男子は徹底的に大人に仮装している。政治家や軍人が憧れの対象なのだろう。祭りなのに浮かれていない妙なムードが新鮮だ。こんな場に、ドラエモンやキティちゃん、ピカチュウにスヌーピーなど、馴染みの顔が居ないのは妙なもんだ。

 

バカンス

「タカ〜、写真撮ってくれい〜!」宿の親父に呼ばれ、リビングへ行くと、お姫様のようなドレスを着た娘が。友達の女の子も一緒だ。ホセのおっちゃんの誕生日には、こうやっておめかしをして祝うらしい。カメラはこの国では贅沢品だ。何処の家にもあると言うわけではない。デザイナーと言うとややこしくなりそうなので、わしの職業はカメラマンと言う事にしてある。と言う事で、わしの登場なのだ。撮った写真は3月までにイタリアに送ってくれと言う。イタリアでバカンスと洒落込むそうだ。わしはカメラは何台も持っているが、バカンスと無縁だ。小金は持っていても、暮らしの優雅さではこの親父にゃ勝てないようだ。それにしても、外人を家に泊めて商売をしてるだけあって、相当に裕福なんだろうね、この家は。

 

人間バイブ

旅行中、毎日がスリルと興奮に満ちているわけじゃない。これと言った決め手がないままベッドの上でダラダラなんてよくある事だ。それでも、ダラダラに飽きて外へ出てみれば、遊んでくれる奴が不思議と現われるもんだ。その日わしは退屈を持て余しながら街をぶらぶらし、気が付いてみれば例の半分沈んだ船の見える湾の端に佇んでいた。退屈なりにその半身を海に沈めた沈船は味わい深く、見ていて飽きないものだ。その間寄って来たのは右手を差し出し、始終ブルブルと小刻みに震える、謎の婆さんだけだった。無言で差し出す右手の意味は遠目からでも分かったが、あまりの不気味さに条件反射的に追い払った。「人間バイブめ!お前は配給で食え!」なんて、心にも無い冷めた悪態を声に出さずつぶやた。それで、退屈が紛れるわけでもなく、辺りの景色に彩りを添えるわけでもない。ただ、言葉を発してみたかっただけだろう。岩場の影で釣りをしているガキを見つけ、しばらく眺める。テグスだけの簡単な釣りだが、見ていて飽きない。釣りを眺めるのは大好きだ。と、退屈を旅情に包んで書いてみたが、その退屈もいつまでも続く訳じゃないのだ。やっとオモロい連中がやって来た。じゃ、また次回!

 

フェルナンド

「コンニチワ!」、退屈を破ったのは、妙なイントネーションの日本語だった。声の主は、やや不良風の3人組。デフォルメされた彫刻のような身体と顔がインパクト大のフェルナンド28歳。短パン一丁と頭のバンダナが海賊の手下風だ。近未来的なグラサンとスキンヘットがトレードマークのリコ。こいつもかなりインパクトがある。二人はダンサーだって。なるほど今までこの街で出会った誰よりもあか抜けてるはずだ。そして、このやんちゃな二人を静かに見守る優しい男ホセ。この3人組、いやダンサー二人のお願いは、日本語のレッスン。よくある展開だが、こいつ等のリクエストが泣かせる。なんでも、随分昔の話しだが、この街にやって来た日本人の美女アヤコが忘れられないと。それで、またいつか必ずこの街にアヤコがやって来る日に備え、日本語をマスターしたいと。しかも、その時に備えた具体的かつ実践的なレッスンを頼むと言うのだ。健気ではないか。ロマンじゃないか。暇なわしに断る理由は何処にも無いのだ。

 

ラテンの魂

「あなたの瞳綺麗です!」「あなたの髪の毛素敵です!」「サルサを踊りませんか!」こんな歯の浮くようなセリフが次々と繰り出される。芝居がかった身振りを交え、恥ずかし気もなく大きな声で繰り返す。あまりの熱心さと、なってない発音のズレがたまらなく可笑しい。特にフェルナンドの空回り振りは最高だ。腹を抱えながらのたうち回って笑わせてもらったよ。ラテン魂をまざまざと見せつけられたって感じだ。女にそんな事言うなんて、わしにゃ出来ないね。それが大和魂だよ。初めはスケベな日本語教えて遊ぼうと思ってたけど、奴等の熱心さにどうすれは美女アヤコが喜ぶかを考えて文章の組み立てまで指導していた。聞こえの良い褒め言葉を羅列しても、女の胸には届かんのだよ、諸君!それにしても、アヤコ来るんかなぁ〜!

 

白ビーチ

サイドミラーの中で遠ざかるモダマ男の寂しそうな顔。それをやや切ない気分で眺めるおれ。苦手だな、懇願の表情。しかも、この懇願の切な顔が最後のお別れになるなんて。たくさん遊んでくれた礼を言いたかったぜ!村から22Km西のマグアナという白砂ビーチへ向かうバスの中での一コマ。いつもながら絶妙なタイミングで現われたモダマ男の連れてけ攻撃をかわし、バスに乗り込んだのだ。偶然にもドライバーは、バラコアまでの白バンのおっちゃんだ。バラコアで一日のんびり出来る最後の日。今までみんなに勧められていた絶景の白砂ビーチへ向かうのだ。絶景田舎道を約20分走ると、そこはな〜んもない白砂ビーチ。本当に何も無い。質素な売店が一軒のみ。まだ10時過ぎだが、帰りは4時集合。強風のビーチは案の定中途半端な白い砂。タヒチやモルディブ、フィリピン、ボルネオ、波照間島。世界の海を股にかけたオレ様には物足りないぜ!と吠えても仕方ない。諦めて日がなビーチで暇をつぶすのだ。昼寝、散歩、昼寝、モダマ拾い、昼寝、ビール、昼寝。暇と退屈の狭間を彷徨う持て余し人となり、ひたすらダラダラ!こんな退屈ならモダマ男と来りゃよかった!と、後の祭りなのだ。

 

まとめ

世話になった宿の家族に礼と別れを告げ、街外れのバスターミナルへ向かう。思ってた以上に地味だったが、味のある街だった。なんとなく「まとめ」のような事を思いながら、リキシャから外を眺める。この微妙なゆっくり具合も旅ならではだろう。今思えば、時間が止まったようなハバナだって、都会らしい活気やノイズが溢れていたよ。今は、軋むペダルと、マレコン通りに打ち寄せる波の音だけ。のどか過ぎて、ちんたらペダルを踏む兄ちゃんの黒い背中で、太陽の染み込む音がジュって聞こえそうだ。

 

旅んちゅの宝〜

「タカァ〜!」バスターミナルの建物へ入るや否やオレを呼ぶ声が!声の主は知らないおっちゃん。誰やねんお前は!と、思いつつも「やぁ!」なんて調子良く返す。オレも有名になったもんだ。おっちゃんは当然のようにチケットを売っている部屋へ案内してくれた。ドアの向こうでは、昨日、ビーチで一緒だったカナダ人がチケット購入の最中だ。オレに気付くと、親切に英語で段取りを説明してくれた。ビーチでのんびり過ごした誼だもんね。見知らぬおっさんに、一度ビーチで挨拶を交わしただけのカナダ人。バリアの無いおせっかいや親切が何より旅の宝物なのだ。

 

グァンコ!

バラコアの街を後に、再びサンティアゴ・デ・クーバへ。深い山を越え、グアンタナモの街へ出る。米軍の基地で有名で有名な街だ。アメリカは、不当に安い土地代をキューバ政府に毎年払い続けているらしい。が、基地の正当性を認めないキューバ政府は、未だその小切手を現金化した事はないそうだ。「頑固」だね。厳しい現実に揺らぎながらも、理想を貫く古臭さが、なんだか新鮮だ。金と力に屈する事無く頑固を貫くなんて中々出来るもんじゃない。

 

名誉白人!

再び、サンティアゴ・デ・クーバ。さすがに5時間もバンに乗ると、疲れがドッと来る。タクシーが見当たらないので、リキシャをゲット。ヒップでホップな黒い兄ちゃんが死ぬ程の坂道を死にそうな程辛そうに登り始めた。いきなりの心臓破りだよ。こう言う人達を「苦力(クーリー)」って呼ぶんだよね。決まってそれらは、黒人やアジア人の職業だ。そんな連中に金を払って楽するおれは差し詰め名誉白人と言ったところだろう。ドラゴン桜じゃないが、世の中、搾取する側とされる側しかないのかね。その二つしか無いなら、する側に付きたいが、わしはその隙間を目指したいね。されるでも無くするでも無く、のらりくらりとね。黒い背中に滲み出る汗を眺めながら、暫し思索の時間。

 

26倍!

再び民宿へ。と言うか、おばちゃんの家へ。旅も折り返し地点を過ぎれば勝手知ったるで、慣れたもんだ。ブザーを鳴らしても反応無しだが、買い物にでも出かけているのだろう、前で待たせてもらうよと、腰を降ろしかけたところで、買い物帰りのおばちゃん登場だ。「アレ〜、ごめんね〜!」って感じでハグ&ベシート。わしのラテンっぷりも板に付いてきたもんだ。キッチンでかなり待たされたが、通されたのは地下の大部屋。地下って言ったって、坂だらけの街だ、玄関の反対側はなぜか3階程の高さだ。窓もバッチリ。そして下手なホテルよりよっぽど広い。でかいベッドにも圧迫感ゼロ!床は大理石だし、天井も高い。トイレも風呂も広々、お湯も当たり前。新しい石鹸まである。ちょっとしたキッチンまで付いている。これ$20だからね。掘り出し物件だよ。小浜荘の部屋と比べてごらんよってなもんだ。でも、冷静に考えりゃ、$20で泊まってくれりゃウハウハなんだよね、ここの一家。外人が如何にボラれてるかってことだ。未だに分からないのは現地の金銭感覚。そろそろ分かってもいいはずだが、外人用とは別の通貨が流通してるらしいから、尚更分からない。一説には26倍との噂も。じゃ、相対的には$520払ってるってか?

 

イカすマシン!

キューバで是非ともやってみたかったこと、それはクラシックなアメ車でドライブをすること。そのアメ車に乗るチャンスが遂にわしにもやって来た。道に止めてあるアメ車を覗き込んでいると、「どうだ?イカすだろ〜!」って感じで持ち主の男が声を掛けて来た。「いやぁ〜、これは最高だね!」なんて調子良く返すと、上機嫌で「ちょっと乗ってみるか?」と話しはトントン拍子だ。そりゃ、外人乗せてちょいと転がせばいい金になるんだろうから、向こうも乗せたいに決まっているのだ。しかし、「特別に乗せてもらえるんだ、ヤッタ〜!」なんて無邪気に舞い上がるわしには、そんな味気ない事情なんてどうでもいいのだ。早くこのイカしたシボレーに乗って、シビレたい!シビレまくりたい!シビレ狂いたい!のだ。早く乗ろうぜ!

 

イカすマシン2!

カチッと小気味良い音とともにドアを開け、シートへ滑り込む。堅柔らかい、何とも言えないケツの感触が気持ちいい。早速エンジンをかけ発車だ。少し高い視点や意外に広い車内、ずっと聴いていたくなるようなエンジンの音。カーマニアじゃないけど、うっとりだ。歩いて回るキューバの街もいいが、この年代物のシヴォレーからの景色はやっぱ格別だ。午後の日を浴びて光るサンテイアゴの街。眩しさと濃い影のコントラストがドラマチックだ。坂が多く、アップダウンもまた楽しい。大袈裟かつセンチメンタルに言えば、古い映画の中にいるようだ。昔ながらの街並に、古いアメ車。横でハンドルを握る、がたいのいいキューバ人。う〜ん。酔うね、このシチェーションには。街を抜け郊外へ。カリブ海を望む高台にある古い城へ連れて行ってくれるらしい。道に覆いかぶさるように茂った並木の木漏れ日が、更に気分を盛り上げてくれる。完璧だ〜!

 

城!

気分の良い坂道を上ると城が現われた。辺りは観光地らしく土産やもチラホラ。ゲバラTシャツもたくさんあるよ。道ばたに机を出して、葉巻を巻く店もある。客はまばらで、ベタな観光地に連れて来られた気はしない。城の中へ入りカリブの見えるテラスへ出る。トロピカルさにヨーロピアンなムード漂う、初カリブだ。真上の太陽と、遠くへ霞んでいく青が気持ちいい。インディオの洞窟を探検してたのが嘘のような、贅沢な気分だ。まあ、実際に贅沢だったのはインディオの洞窟の方なんだけどね。人がいなきゃ観光地も悪くないね。

 

So Cute!

サンティアゴも最後だ。イカしたアメ車ドライブでかなり満足だが、やり残した事がひとつ。それはこの宿の娘の写真を撮る事。大人になっても美しいままかは知る由もないが、バツグンにキュートなのだ。キュートと言う言葉がこれほどフィットする女の子もなかなかいない。キュートの成分を分析したら割り出されるであろう、可愛らしさと色気の割合を正確に配合して出来たのが彼女なのだ。前に会ったときは、ソファで色鉛筆を揃え鞄に入れていた。その小学生らしい行為と、既に漂う色気のアンバランスさがたまらない。大好物だ、ワシの。しかも、わしの方をチラッと見てニコッと微笑む。長い髪の毛をかき分けながらね。子供の無邪気さを越えた、女の本能をその笑顔の奥に勝手に感じてたじろぐわしなのだ。やるな、この女。しかし、この家の娘ならいつでも撮れると油断していたら、あっという間のお別れのときだ。もう、支払いも済ませタクシーを待つだけだ。最後に一目だけでも、とソワソワと辺りを見回していると、願いが通じたのか外から戻って来た。何故かお姉さんに許可をもらい、一枚だけパチリとシャッターを押した。気が動転してて、ドアップな一枚になってしまったが、あんな大きな瞳には吸い寄せられるしかないのが、男の悲しさなのだ。

 

アミーゴ!

「今度来たら、ここを訪ねておいで!」と、紙切れに書いたアドレスを渡された。ここは夜の空港。たまたま隣り合わせたキューバ人の家族。ちょっとした世間話と、記念撮影のシャッターを押しただけだが、もうおれはアミーゴと言う事なのだろう。夕方5時に空港へ着いたのだが、フライトが遅れ、いつ飛ぶかも分からないと言うトホホな展開の中での一コマ。途方に暮れてベンチに座り込んでいると、大勢の家族が隣に陣取り、たちまちその勢いに飲み込まれたのだ。手にした走り書きのアドレスを見ながら、「そうか、今度はここに来ればいいのか!」と、旅の最後で居場所ができたことと、有意義な暇つぶしが出来た事が無性に嬉しい。

 

おばはん!

0時過ぎ、やっと飛行機が飛ぶらしい。チェック・インのため並んでいると、前にいたおばさん4人組が話しかけてきた。たわい無い世間話だが、なかなかオモロイおばはん達で、いい退屈しのぎになる。ハバナでスペイン語を勉強中らしい。スペイン語は勿論、英語も怪しいおれは、これから先このおばはん達を密かにマークし、ついて行こうと決めた。空港の流暢なアナウンスなんて英語とは言え解読不能だからね。同じ飛行機に乗るなら安心してついて行けるのだ。チェック・インが終わって別れた後も、視界から外さないようにマークし続ける。そして目出たく機内へ入り、あとは離陸を待つのみ。思えば長く退屈な時間だった。2時間弱のフライトはあっと言う間だ。そのあっという間のために、7時間も空港にいたのだ。アホらしい。ハバナに着くと、なにやら機内アナウンスが。自分では理解不能なので、あのおばはん達の動きに注目だ。全員着席のなか、立ち上がるおばはん達。慌てて後を追う。そして、飛行機を出て空港内へ。するとそこは・・・。

 

ドメステ!

飛行機から出て来た場所は、なんと国際線ターミナル。おいおい、おばはん!カナダから来たんだから英語は達者だろ!どうやらアナウンスは、「国際線に乗り継ぐ奴は先に降りろ!それ以外の奴は、ドメステターミナルへ行くから少しじっとしてろ!」と言う事だったようだ。冷静に考えりゃ、降りて来たのが5人しかいないんだから、おかしいはずだよ。おばはんを頼りすぎて失敗してしまった。しかし、こんなとき慌てずズ太いのもおばはんのなせる技。空港スタッフを捕まえ、交渉。ドメステターミナルへのバスが出る事になった。飛行機から降ろされたコンテナからコーラを頂戴し回し飲み、余裕の態度が眩しいのだ。結局ドメステターミナルへ着いたのは午前2時半。今夜はいったいいつになったら眠れるんだろう?それより、こんな時間にハバナの街へ出て、ホテルにありつけるんだろうか?言葉が分からず勘で旅をするのもなかなかツライ。

 

午前3時!

キューバは、珍しく治安のいい国だ。社会主義国の堅苦しいイメージも、実際にはそれ程じゃないし、途上国によくあるヤバい雰囲気もあまり無い。この旅の始めの頃に会った通訳兼ドライバー券コーディネーターのK氏も言っていたが、盗みや殺人なんてほとんど起こらないらしい。真夜中の空港からハバナ市街へのタクシーの中で、そんな話をふと思い出していた。不思議な物で、オレンジ色の街灯に浮かび上がるハバナの街は、驚く程に大都会に見えた。日本から到着したときの印象と、田舎街から戻って来た今では、印象が180度違うのだ。ハバナで一番安いと言うホテルへ到着した頃には、午前3時を回っていた。運良く空き部屋があり、めでたくベッドになだれ込んだ。

 

大放出!

窓の無い部屋でも、朝はなんとなく目が覚める。8時過ぎ、眠いが屋上の食堂へ。安いホテルだがロケーションは最高。ハバナの旧市街のど真ん中だ。しかし、今までの民宿での食事とは打って変わって不味いメシ。安いと言っても4,000円弱は、貧乏旅行では痛い。キューバには安くていいホテルは無いようだ。ベトナムのファングーラオが懐かしい。一人の不味い飯では、景色が良くてもやはり侘しい。と、そこへ隣のテーブルに着いた日本人の中年夫婦が声を掛けて来た。ほとんど食べ終わっていたわしは、テーブルを移り世間話。日本語に飢えていただけに、ここぞとばかりにしゃべりまくった。これから旅が始まる夫婦と、ほとんど旅を終えたオレ。聞きたい事てんこ盛りの夫婦と、今までの旅を吐き出したいオレ、まさに需要と供給の一致だ。気が付けば1時間も夢中でしゃべってしまっていた。

 

民宿!

ハバナの旧市街をぶらつこうとホテルから出たおれを目ざとく見つけ、男が声を掛けて来る。「民宿はどうだ?」もうすぐ終わる旅だ、多少安くても宿を移る気はないが、後学のために見ておこうと、ついて行く。すぐ側の物件は、旧市街にふさわしいボロボロの外観。しかし、扉をくぐり、階段を上ると、朝の光が射し込みまくりの広い空間が。くたびれてはいても、天井は高く、窓も広い。なんと言う開放感。こんなのが$20なんだから、ホテルって一体何だ!窓もないくせにベッドが2つもあるおれのホテルなんて牢屋のようなもんだ。ハバナそのものと言ってもいい旧市街では、その旧市街の民家に泊まってこそ醍醐味を満喫出来ようというもの。まぁ、民家と民宿も厳密には違うけどね。

 

ボッタ君!

街をぶらついてると、色んなやつがちょっかいを出して来る。このちょっかいがないと、引っ込み思案なおれは上手く他人に飛び込んで行けないから、少々煩わしくてもありがたい事なのだ。朝からサケ(本当に日本酒の味がした)を喰らって、やたらハイなおっさんに無理矢理ごちそうになったり、かの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で有名なコンパイ・セグンドの家へ行かないかと誘われたり。実際に行くと、小綺麗でなかなかの家だったけど、セグンドはいるはずないし、結局高いモヒートを2杯飲んで、おれを連れて来たガキと女の話しで盛り上がっただけだった。スペイン語が出来ないおれと英語が出来ないあいつで何故盛り上がれるかは、未だに謎だ。けど、余りなボッたくりモヒートに怒って帰ろうとするおれに「頼むから金をくれよぉ〜、$1でもいいかからさぁ〜」と、懇願するヤツの顔が焼き付いて、楽しいひとときも台無しなのだ。あ〜メン。

 

クバーナ・チャイニーズ!

キューバでの食事は、民宿に泊まっていたのでかなり満足していた。家庭料理はなかなか美味しいのだ。だが、ハバナでは全て外食。これが、なかなかいいのがない。ふらっと一人で入って、さり気なく美味いもんが出て来る店、ないねぇ〜なかなか。で、趣向を変えてチャイナタウンへと足を運んだ。困ったときの何とやらだが、わしに言わせれば中華だって日本が一番だ。上海、青島、香港、台湾が束になってかかって来てもかなわないのだ。いや、台湾は美味かったな。で、ハバナの中華街。狭い路地から、分かり易いアジア臭がプンプンだ。チャイナ服のキューバ人が、メニュー片手に呼び込みに余念がない。アジアの湿り気と雑然さが、今は心地いい。いくら民宿で飯が美味くても、根本的な日本食への飢えはどうにもならない。だから中華で何とかごまかすのだ。上手くごまかせるといいけど...。外国の中華、油断してるととんでもない攻撃を喰らうハメになるからね。

 

クバーナ・チャイニーズ その2!

やたら愛想のいい呼び込みをかわし、何故か隣の店へ。ジャージャー麺と餃子を注文。無意識に期待をしてしまったせいで、やはり凹むことに。食えない程不味くはないが、決して美味くはない。ちゅうか、そもそもこれはジャージャー麺か?と言った出来だ。それでも、目の前の通りで、果敢に客を呼び込むチャイナドレスやカンフー服のキューバ人を眺めながらの、不思議な情景はなかなか味わい深い。意外とキューバ人の口に合うのか、ハバナっ子の客でどの店もそれなりににぎやかだ。不味いと文句を言いながらも、やはりこう言う湿り気のある雑然さはいいもんだ。明日も来よう!そろそろ金もなくなって来たしね。

 

落陽!

マレコンで海を眺めていると、またしても男が声を掛けてきた。結局最後には「金くれ!」って言うんだろ、お前も。そんな諦めから軽くあしらっていたが、なかなかのナイスガイ。「一緒にビールでも飲もうよ。」と、誘うので「割りカンでな!」と、軽く釘を刺し、近くの店へ。目の前のでかい病院を指し、おれの職場だと言う。働く姿の写った写真を嬉しそうに見せてくれた。そして仕事の話しを誇らし気に聞かせてくれた。だがこの国には問題があると言う。弁護士でも医者でもスポーツマンでも、才能のある人間はみな国を飛び出してしまうと。どうやって海外で働けるのかは謎だが、とにかく残った人間は、可能性の無い現状にうんざりだと言うのだ。敢えて、わしの国では医療も教育も金次第だよ。ここは全部ただでいいじゃない!とオレ。だが、それでも可能性の無い窮屈な社会主義は息苦しいと言う。じゃあ、キャピタリズムを支持するの?とやや意地悪な質問を投げかけると、「支持するよ!」と即座に答えが返って来た。本心なのか勢いでの言葉なのか、計りかねるが、とにかく自由が欲しい事は伝わってきた。カストロは確かに偉大だったが、革命から半世紀近くも経ってしまった、そろそろ次の世代にバトンを渡して欲しいと言う。丁寧に熱っぽく語る男の話しは、独立を勝ち取った事、アメリカに背を向けながらもなんとかやっている事、治安のいい事、福祉が一応充実している事、なにより人生を楽しもうとしている事などなど、意地を張りつつも踏ん張って自立している事を誇らしく思う反面の閉塞感なんだろう。病院の向こうに沈んで行く太陽を眺めながら、新しい陽が昇る事を願う目の前の男の言葉を頭の中で繰り返した。

 

プロパガンダ!

最後にどうしても撮っておきたい写真がある。帰るまでに撮ればいいやと、タカをくくっていたら、最終日の夕方になってしまっていた。慌てて現場へ。マレコン通りを早足で歩く。本日初めてとも言える、通りがかりのおっさんとの世間話を勘とゼスチャーでこなしながらズンズン歩いた。日没間際のきわどいタイミングでお目当てのパネルの前に到着。いつもタクシーの窓から気になってたんだよね、コレ。通り過ぎながら「そうだ、その通りだ!」といつも叫んでた。やっと到着した安心もつかの間、海をバックに仰々しく建つパネルの道路を挟んだ向かいには、2メートル置きにずらりと並ぶ兵隊の姿が・・・。おぉ〜、これはヤバい景色じゃないか。しかし、陽は刻一刻と沈んでいるのだ、ためらってる場合じゃない。撃つなら撃てよ!と、兵士の列を背にし、何枚も連なるそのデカいパネルにカメラを向けた。ファインダーを覗いてる時には恐い物は無い。夢中で撮影した。安堵感と達成感に包まれ我に返ると、わしの横で無邪気なカップルもそのパネルにバカチョンカメラを向けパチパチやっているではないか。なんだよ〜。撮影歓迎かよ。街中に派手な看板やポスターなんてほとんどないから、かなり目立つこのパネル。強烈なメッセージと言うかプロパガンダに、やっぱり今回も叫ばずにはいられない「そうだ、その通りだ!全くその通りだ!」。その写真はこちら

 

おまけ!

これで、初めてのキューバ旅行はお仕舞いです。読んでくれた人、ありがとう。先入観やイメージが濃い国だけに、素直な目線で見るのはなかなか難しいけど、色んな意味でそのイメージは満たされ、かつ壊されたような気が・・・。言葉が通じない分、肌で感じた旅。と言うか、感じるしか無い旅だったけど。帰り、メキシコシティのゲストハウスで知り合った日本人の女の子に、「勘」での旅の話しがバカウケだったな。他の白人パッカーにも英語で説明してもらったら、これまた大ウケ。旅は「勘」でするもんじゃないと言う事だね。と、言いつつも、次はイエメン。全く模様にしか見えないアラビア語の国。「勘」での旅は、まだまだ続くのじゃ!それじゃまた!