白いバン!

朝のバスターミナル。金を払おうと事務所に足を向けたとたんに昨日のヒネ男が、こっちだよとあさっての方へわしを誘導。疑惑の眼差しでその先に目をやると、白いバンが一台。そして人の良さそうな男とやや怪し気な男がその前に立ってる。ヒネ男はわしがバラコアに行きたい事は百も承知のはずだが、不安なわしはバンを指してバラコア?と念を押す。ビアズルと言う名の最王手バス会社の便を予約したのに、明らかに朝っぱらからおかしな事になってるじゃないか。外人を乗せる豪華なバスのはずだったのに。ハバナでもここサンティアゴでも何度も見かけた、ロゴ入りのカッチョイイバスに乗るはずだったのに。何だこの白いバンは。バスですらないじゃないか。それにやはり怪しい合計3人の男。うぅ〜、こいつ等を振り切って早く事務所に逃げ込んでしまおう、と引き返そうとすると、バンの前の男が「7:30に出るバラコア行きだよ。ビアズルより安いし早く着くよ!」とはっきり言った。安くて早い?後から俯瞰してみれば、全く短絡的なわしの思考回路。「安い、早い、安全」と三拍子揃うには安全の確認が最優先のはずだが、安くて早いなら素敵とばかりに荷物をシートに押し込んだ。おぉ〜マイガッ!でも確かに値段は安いように思えた。まだ薄暗いバスターミナル。客をわし独りだけ乗せて白いバンは走り始めた。と、同時にわしの不安も走り始める。当たり前だ!

 

聖地!

10分も走れば、街を抜ける。少し薄明るくなった窓の外は、深い緑が遠く続き、その合間を霧が埋める。椰子のシルエットがポコポコ見えるのに、日本の山奥の農村のような景色。今まで見た事のない不思議な景色だ。走り始めてすぐに、おばちゃんを一人乗せ、客は二人になった。これは大いなる安心材料だ。これで窓の外を流れる景色を、情緒に任せてうっとりと眺められると言うもんだ。グアンタナモと言う、唯一の米軍基地のある街を抜け、乾いた荒野をひた走る。メキシコの荒野のようにサボテンがボコボコ生えている。右手には青い海が。カリブだろうか?そして深い山へ突入だ。この山はゲバラの信者なら聖地に違いない。カストロと共に乗り込んだグランマ号と言う名のヨットで、キューバ東部の海岸に漂着したものの、政府軍の襲撃で12名だけ生き残った反乱軍。そして今走っているシェラ・マエストラ山脈に立て篭って2年以上も闘い抜いたのだ。そんなドラマチックな現場を抜けて、コロンブスが最初に入植した街に行くなんて、ホントわしってセンスいぃ〜!

 

ブカネイロ!

走る事5時間、やっと着いたバラコア。カリブ側から山脈を越え、再び大西洋側に出てきた。紹介してもらった宿のカードを見せ、前まで連れて行ってもらう。宿から出てきた男が弾けたような笑顔で、「タカァ〜、探したんだよぉ〜!」と、駆け寄って来る。何だ何だ?知らないぞおれは、この人。聞けば、サンティアゴから連絡が入っていて、随分前に到着していたビアズルのバスを待っていてくれたらしい。が、寸前で違うバンに乗ってしまったおれは、待てど暮らせど現れないと。かなり心配をしてくれていたと、そう言う訳だったのだ。ただ宿を紹介してくれただけじゃなく、今朝のバスでそっちに着くからよろしくと、手はずは整っていたようだ。距離もあるし、電話もそんなにポピュラーには見えないが、なかなかの連携振りとホスピタリティじゃないの。そうとは知らす、勝手な事をしてしまった。わりぃ、わりぃ。しかも、安い早いと謳ったわしのバンは、遅かったんじゃないか。しかし、結果オーライだ。途中、山の中でおばちゃんにオレンジをもらったり、ドライバーが民家に卵を届けたりと、ちょっとした、寄り道やふれあいが、5時間の道のりをかなり味な物にしてくれていたからね。迎えてくれた男は、更に別の宿へおれを案内してくれた。恰幅の良い街のボスのようなオーナーが「良く来た!」と、迎えてくれる。本当に海辺に建っている結構ナイスな宿だ。当然ここも民宿で20$。昨日の宿よりは、田舎の物件だけに素朴極まりないが、清潔感や開放感は言うに及ばず、何より古めかしい冷蔵庫に沢山詰まったブカネイロ(ビール)が最高なのだ!

晩飯!

この民宿スタイルの素晴らしいのは、なんと言っても食事の充実ぶり。ママが毎晩家庭料理を振る舞ってくれる。肉や魚、エビやカニのメインデッシュ、各種サラダやバナナの揚げ物、豆の煮込み。フレッシュジュースにコービー。ビールは部屋の冷蔵庫に満載だ。一人の食卓なのに、皿数は結構なものだ。毎日、遊びに出かける前に親父が「今夜はカニでどうだ?」とか「上手いブタ食わねぇか〜?」なんて聞いてくる。多分メニューはママによって決められているのかも知れないが、わしは何だろうと「いいねぇ〜!」なんて、いい調子で返事をするのだ。実際に飯は美味い。それにしても、夕暮れ時の柔らかい風をうけながらの飯は最高だ。たまらん!すぐ側で聞こえる波の音がまたたまらん!行き当たりばったりでこの宿にたどり着いた事に、何はさておき感謝だ!

マレコン!

バラコア。馴染みの無いこの街は、コロンブスが最初に入植した街だそうだ。ハバナと同じ名のマレコン通りが海沿いに走る。でも、街並はハバナとはまるで違う。まず、建物が圧倒的多数で木造だ。そして高い建物が無い。せいぜい4階建てだろうか。民家はほとんどが平屋か2階立てだ。あまり出会った事のない不思議な感じ。その不思議具合の中にも微かな既視感が混在し、独特な雰囲気なのだ。忘れ去られた街と言う表現が似合わないでもない。深い山を越えてたどり着いただけに、それなりの都会感もあるにはあるが、形容し難い非現実的感が漂う。マレコン通りを西へ歩く。人通りもまばらで、少々侘しい道の果てに湾が開けていた。その真ん中で、半分にちぎれた巨大な船が波に身を任せ、朽ちて佇んでいた。15年前に座礁したまま、波に洗われているそうだ。船の回りを一周するように湾に沿って歩く。素朴極まりない漁村が現われ、その黒い砂浜を歩く。妙な静けさが、やけに落ち着かないが、意外なお宝を発見した。こんな場所でこいつに出会えるとは。一人旅で辛いのは、この喜びを誰とも分かち合えない事だ。で、勿体振ってお宝の正体は次回のお楽しみと言う事で!

逸品!

モダマと言う物の存在を知ったのは、ほんの2〜3年前の事。とある離島で知った。でかい豆のことだ。その離島では目ぼしいアトラクションもなく、暇を待て余すと浜辺を散歩しながら、貝やサンゴ、流木やガラスの浮き球などを拾うようになるのだ。末期症状だね。別にナチュラリストを気取ってるわけじゃないのにね。で、当然そのモダマ様は漂流物の中でもお宝度はかなり高い。これを使ったアクセサリーは結構高価だ。だが、値段よりも、その存在感に強く惹かれるのだ。去年は日帰りで隣の島までわざわざ遠征したが収穫ゼロであった。その気配すら感じる事も出来ずに、すごすごと帰って来たもんだ。それがなんだこの浜は、一つ目に入ると次々に目に飛び込んで来るじゃないか。一人だから声も出せずに、喜びを噛み締めながらアッと言う間に、ポケットが一杯だ。遂には妙な日本人がいるもんだと思いながらも、こうやって探すんだと、年季の入った浅黒い肌のおっさんによる指導が入る始末。おっさん、普段絶対拾ってないよな。あっという間に拾ったお椀にも一杯になってしまった。うひょ〜だよ、こりゃ。辛いなこう言うの。誰とも分かち合えないんだからさ。分かち合うまでに何日かかるんだっての。分かる奴等には垂涎の的だろうよ。サイズも色艶も国内産を遥かに凌ぐ逸品!しかも、A級品とB級品に振り分けて、粗悪品は海に向かって水切りしながら捨てるという贅沢っぷりだ。ガハハッ、笑いが止まらん。キューバで暇を持て余した覚えは無いが、こりゃ旅の目的が変わってしまいそうだ〜。

タコ!

マレコンの果ての浜がモダマの浜なら、宿の目の前の浜もそうだろうと歩いてみる。男が気安く話しかけてきた。こいつヒネ男か?怪しいが人懐っこい感じが微妙だ。振り切りたいが、しつこく付いて来る。わしの目的がモダマと知ると、微妙にわしの先を歩き勝手にモダマを拾い始めた。この浜にもちゃんと落ちているようだ。もちろん拾ったらくれるのだが、これが最高にイラつく。サービスのつもりか、何かの企みの伏線か?言葉は通じないので、ゼスチャーでわしの前を歩いたら殺す!と教えるが、すぐ前に出てきて先に見つけて拾うのだ。拾い方の指導なら大歓迎だが、実際に拾うのは反則だ。自分で拾う楽しみと、一人歩きの気楽さを奪われ怒り心頭だ。抗議のゼスチャーをし続けながらのモダマ拾い競争。なんだこりゃ。

タコタコッ!

くそっ、もうやめた!この男の勘違いのサービスにイライラも頂点だ。アホなゼスチャーにも疲れた。この男が理解して尚、おれより先にモダマを拾うならもうコミュニケーションそのものに意味が無い。しかしだ、全く腹立たしいのは、そうやってシカトを決め込んで浜に座り込んでも、今度は呑気なアクセサリー屋が寄ってくるのだ。観光度の極度に低い浜とは言え、外人は放ってはおけないのだろう。勝手に地べたに広げ、さぁどうよ!と、得意顔だ。おっさん興味無いし気分じゃないんだよと、軽く睨んでみたって相手は涼しい笑顔だ。成り行き上チラ見で並んだ商品を見る。結構カッチョ良いのあるじゃん。もう意地張るのもやめだ。あくまで見るだけだぞと、勝手に念を押しながら幾つか手に取ってみる。各種木の実で作られたそれらは、あまり見た事がないタイプのものだ。気に入ったやつを腕に巻くと、ブカブカだ。するとさっきのモダマ男がしゃしゃり出てきて、ちゃんとフィットするようにしろよとエラそうに指示をだす。慌てて道具を取りに戻るアクセサリーおやじ。誰も買うなんて言ってねぇ〜だろ!ったく!一々感情を震わせるのがバカバカしくなってくるよ。暫くすると、目出たくオレ様の腕にフィットした木の実の腕輪が出来上がった。座ってるのもアホらしいと、やっぱり歩く事にした。モダマ男に「これから歩くがもう二度とおれの前に出るんじゃないぞ!」と、言い飽きたセリフとゼスチャー。満面の笑みでうなづく男。なんだかなぁ〜!

 

原風景!

このモダマ男の目的はどうやらずっと先にある山のようだ。内心イライラしながらも仲良くモダマを拾いながら進む二人。別にその目的に同意したわけじゃないよ。だが、広い砂浜も終わり結局山へ向かうオレ。マングローブの茂みの中、細い木の板で長い橋が架かる。真向かいにそびえる山には椰子がビッチリ生えていいる。素朴な街の景色ではない。深い山村の景色だ。辺りには大好きなアジア的な空気と気配が充満している。キューバの数ある景色のなかでも、これは予想外の嬉しい景色だ。これって結構キューバの原風景なのかも知れない。頼りない橋を渡りながらカメラも持たず手ぶらで来た事を悔やんだ。橋を渡ると、素朴など通り越した大昔のような景色。赤土に深い緑。子豚の群れに鶏の群れ。馬やロバの道。苦々しいモダマ男ではあるが、こればかりは素直に感謝の念がこみ上げて来る。エライぞ、モダマ!だけど、ちょっと得意げな表情が微妙にイラ付くんだよなぁ〜、気を付けろ!

探検!

数件の民家を抜けると、グィっと上り坂だ。ナイスなヴュ〜に呆然としながらトボトボ登る。右手には深い山肌、左手には、弧を描いて遠くへ延びる砂浜やバラコアの街が小さく見える。モダマ男はブエノブエノ、ナチュールナチュールと興奮気味だ。何の事やらだが、大自然綺麗!なんて言ってるのだろう。言っておくが今回の旅は勘で行動してるのだ。言葉は通じないからね。坂を登り切ったところで、一件の民家へ。なんだ?友達の家か?昔ながらと呼ぶには、余りにも原始的で素朴な暮らしぶり。人生を刻んだ皺も素敵なじいいさんとばあさん、その孫夫婦にひ孫。そんな家族構成(勘)。庭では元気過ぎる鶏や猫に山羊。すると山の上からロバが荷物を運んで来る。台所ではかまどに鍋が掛かっている。何処をとって電気やガスの気配もない。と思いきや、別の部屋を覗くとミニコンポが。やっぱりこいつが無きゃ踊れないと言う事か。文明の利器に溺れていない様が、気分良い。みんなの集まで、盛り上がって踊るときにそっとスイッチオン!なんてやるのだろう。座って休んでいると、アルバムが出てきた。何年か前にこの先の山で、とある研究チームが先住インディオの洞窟探検をした時の記録だ。写真や新聞の切り抜き。学術的にも結構重要な物のようだ。これから、この家の若者をガイドに、その洞窟を探検するそうだ。モダマ拾いが大変な事になってきたぞ!

不思議惑星!

家を出て赤土の山道を少し行くと、開けた椰子の林に出た。右手の山肌はそびえる崖になっていて、上の方には無数の穴が空いている。イエスのジャケットに出て来る不思議な世界を彷彿とさせる。ロジャー・ディーンの世界ですな。彼が熱帯の不思議惑星を描いたらきっとこうなるのだ。その、崖にズンズン歩いて行く3人。いい加減な木で組んだはしごが掛かっている。結構な高さだ。若者ガイドの笑顔に背中を押され、ガンガン登る。こうやって何人もの外国人がこの階段を上ったのだろう。だが日本人でここに挑んだ奴は今年に限って言えばオレが最初だろう。しかも便所ぞうりで。だって『地球の歩き方』にゃ、バラコアさえ載ってないんだから。そう考えると、日本からアクセス出来るキューバの情報なんて、かなり乏しいと言わざるを得ないね。キューバでコロンブスが最初に入植した街バラコア。正確には街はなかった。街はコロンブスが作ったからね。この高さからは大西洋も丸見えだ。今ではキューバの何処にも生き残っていない先住インディオ達は、水平線から突如現われた不気味な船をどんな思いで眺めていたのだろうか?

空中住居!

この高層洞窟には、幾つもの部屋がある。リビングにキッチン、寝室など。カタコトの英語とゼスチャーで解説してくれる。なんともカメラが無いのが悔やまれる。結構スリリングだし、美味しい景色の連続だ。だが、手ぶらでぶらりとこんなトコへやって来てしまっている事への満足感があるのも事実。意外とカメラがあるからこそ見ていないコトやモノってあるんだと思う。暇だから、明日も来ようっと。勿論カメラ持参でね。かなり大規模な洞窟、いや空中住居だ。途中で休憩だ。3人でしゃがみ込み、おしゃべり。これが不思議と成り立つから面白い。しかし、こんな場所はこの連中にとっちゃ大発見でも学術的でも無いだろう。ただの裏山でしかない。「遥か昔、先住インディオが暮らしていたとしても、今はオレたちの庭さ」って思ってるはずだ。その暮らしの現場感と言うのもまた乙なのだ。しかし、疲れた。のども乾いた。ペットボトルの水さえ持っていないが、心配は無用。降りて椰子のジュースを飲もうと言う事になった。ガイドの腰に挿した長いナイフさえあれば、裏山なんて恐れるに足らないのだ。しかも、別の場所には、秘密のプールがあると言う。どんどん転がって面白い事に出会う。最高だ!

ワイルドさん!

下へ降り、椰子ジュースで一服。正直あんまり美味いもんじゃないが、ムードだ。ワイルドな男がワイルドに木に登ってワイルドに落とした実をワイルドに刀で割ってワイルドに飲む。「プハァ〜!」と一声、腕で口を拭う。そこに、冷えてないだの、味がシャープじゃなくて表現し辛いだの、一人に一つ丸々は多いだの御託を並べるのは男じゃないのだ。と、御託を並べたトコロで、次のメニューは、秘密のプールだ。汗と椰子の汁でグチョグチョだから、一刻も早くその秘密のプールに飛び込みてぇもんだ!

 

インディオジャ〜ンプ!

歩きづらい道?をしばらく行くと、地下帝国への入り口のような穴がドォ〜ンと現われた。もう少しまじめにリポートすると、岩山に斜め下に向かって深く穴が続いている。それなりに大きい。しかも、深くて何メートルか先はもう暗闇だ。ゴツゴツした大きな岩がややこしく絡まりながら下へ続いている。気のせいではなく、空気は冷んやりと気持ちいい。しかし気持ちいいのは、崖に登ったり、山を歩き回ったりしたからだ。だから、不気味さなど微塵も感じず、すぐにフルチン小僧になれたのだ。真っ暗で先が見えないが、小石を投げてみると「ポッチャ〜ン!」と涼しい音が。微妙な距離。モダマとガイドはこんな時の為に用意してある火炎ビンを岩の隙間から取り出し火を付けた。暗闇を照らすのに火炎ビンとはなんと驚きだが、初めて見たそれに楽しさが込み上げて来た。火が照らす範囲は狭いので、ガイドと一緒に水面近くまで降りて行く。冒険度はかなり高いのだ。炎に照らされた水は透明で底まで透けて見えた。穴の奥まで来れば、さすがに閉塞感があるが、逆に底から見上げる穴の入り口からは神々しい光が射している。その光さえ届かないこのインディオのプールに「インディオジャ〜ンプ!」などと、ふざけて叫びながら飛び込んだ!

地底プール!

思った以上に水は冷たいが、気持ちいい。念願叶って、汗も椰子の汁も綺麗さっぱりだ。深度も深目の風呂程度で丁度いい。しかし火炎ビンの炎が照らす範囲が狭く、2m程先は闇だ。プールの端はどうなっているのかは不明。変な魚や妙な虫の気配は無いが、闇に消えて行くプールの先へ進むのはさすがに怖い。だから傍目には地底の温泉につかるインディオみたいだろう。開放感と閉塞感の微妙な交錯を楽しみながら、チャポチャポ楽しんだ。後から考えると、結構無防備に楽しんだもんだ。自分から身ぐるみ脱いで裸になって、全財産モダマ男に預けてたんだからね。一歩間違えば、全部持ってかれて裸で宿まで帰るハメになっていたかも。ノリや流れってスゴイね。わし何も怖くなかったし、途中から怪しいとも思わなくなってたもんね。しかし、楽し過ぎだ。明日カメラを持ってまた来よう。

 

タコタコタコッ!

楽しかった帰り道、当たり前のように幾らかガイド料をくれと言う。モダマ男も目で「適当に払ってやってくれ。」と、言っている(勘)。明日、カメラを持ってまた遊びにくる旨を告げ、多少ディスカウントした額を手渡す。握手をして笑顔で解散だ。が、相変わらずおれと歩き続けるモダマ男に、イライラ復活。こんな田舎だ、一人でのんびり歩きたいじゃないか。なのに、モダマを拾いに浜に出たときから、ベッタリなのだ。今までに無い毅然とした態度で「もういいだろ、一人にしてくれ。」と、一言。それじゃ金をくれと、決まりの台詞も動じないオレ。すると、じゃ分かったよと、少し寂しそうな後ろ姿で、坂を下っていった。期待以上の結果にちょっと後味悪かったかなと、苦みを味わいつつ、しばし眼下の海岸線を眺める。ずっと先にはオレの宿が見える。結構歩いたなぁ〜。まあ、プラプラ帰るべと、わしも歩き始めた。山を下り、村を眺めながらのんびり歩く。夕方の、なんとはなくのソワソワ感が村全体に漂っている。みんな晩ご飯何だろうね。わしだって帰ってからの用事はと言えば、晩飯だけ。なんて自由なんだろ。しかも、明日はカメラを持って再トライだ。予定のある自由っていいね。長く細い板の橋を渡り海へ。無意識にモダマを探しながら砂浜を歩く。そうだよ、これだよ。この、一人のんびりモダマ探し。見つけても見つから無くても楽しいモダマ探し。しかし、行きで拾いすぎたか、あまりに見つからない。結構歩いたところで、「タカァ〜!」と、なにやら聞き覚えのある声が。嫌な予感に恐る恐る目をやると、そこには両手にモダマを抱えて嬉しそうに笑うモダマ男が。おいおい!この懲りない男を抱きしめようか、それとも殴ろうかと、立ち尽くすしかないわしであった。

 

模範的生活態度!

翌朝、早起きして海辺のテラスより海を望む。昨日遊びまくったビーチの果ての山に目をやり、早くも気分が高揚するのだ。朝っぱらからワクワクすると言う事が、旅先ではしばしば起こる。いつもは、朝なんか死んでしまえ!なんて思っているし、実際に用事がない限り13時頃までは布団の中だ。朝や午前中を黙殺して生きている自分としては、この8時にもなっていない早朝にワクワクするなんてかなり画期的な事。朝飯前に生き生き起き出すおれをここのママはよゐこだと感心してるばずだ。わしは旅先でのみ、規則正しい人間に戻る。 正しい人間には、正しい朝飯が待っているのだ。

小出しにするはずの写真を使いきりだ〜!ほれ!

 

ベシート!

朝っぱらから、モダマ男とシンクロして歩くのはイラつくので、遅刻気味にビーチを歩く。しかし、水も持たず張り切って出て来た事を後悔し始めた頃、憎めないがやっぱりイラ付く笑顔でヤツは現われるのだ。ビーチに唐突に現われた小屋で、正体不明のジュースを飲み干す。やっぱりオレを助けてくれるのはお前だけなのか!なぁモダマ男よ!昨日と同じように橋を渡り村へ。二度目だが飽きない素朴さに目が釘付けだ。すると、モダマ男が一軒の家を尋ねた。しばし談笑。なんだよ、おれを放っておいて立ち話かよ!なんて思ってると、ささっ、中へ!と、通された。アジア顔のおばちゃんの熱いベシートで迎えられた。既に汗だくのオレ様の頬は、さぞ気持ちよかろう。グフフッ!てっきりモダマ男の友達の家かと思いきや、いや、確かに友達の家らしいが、真の目的はこの村の暮らしぶりを写真に撮らせようと言う事らしいのだ。昨日、モダマ拾い合戦のときに「この先の山へ行こう!綺麗な自然を見よう!ナチューレ、ナチューレ!ウキキッ、ウキキッ!」としつこいモダマ男に、「自然や綺麗な景色もいいが、わしが見たいのは暮らしぶりそのものなんだよ!」と、抵抗していたのだ。ヤツはしっかりそれを覚えていて、アレンジしてくれたのだ(勘)。モダマァ〜、お前ヤリ手過ぎるぞぉ〜!

 

生活感!

モダマ男の粋なはからいで、一般家庭での撮影と相成った。もう、美味しい被写体の連続で、夢中で撮りまくりだ。こんなんで、ちゃんと大事なモノを見ているのかはなはだ疑問だが、もう頭の中は「質素な暮らしフォ〜!」と、脳みそが叫んでいる!むせ返るような生活感がなんとも圧巻。家にブタの部屋だってあるんだもんね。わしの部屋も油断するとブタ小屋みたいに散らかってしまうが、本物には敵わない。リアルなシンプルライフバンザイだ!と浮かれていると、別の部屋では何やらじいさんが『考える人』状態で、渋く瞑想の世界へ飛んでいるようだ。赤いシャツと部屋に射し込む光がいい感じだ。無邪気にじいさん写真撮るぜ!と、構えるが反応無し。アジアのおばちゃんが、目が見えないのだと教えてくれた。とびきり便利で退屈な世界から見れば、とびきり素敵で正しく見えるこの質素な暮らしの、厳しい現実。流れ上書いてしまうが、夕方、山の帰り道でこのじいさんを見かけた。最初はじいさんだと気が付かなかったが、エレファントマンのような袋で顔を隠し、木の枝の杖を振り回しよろけながら歩いていた。すれ違う人も誰も手を貸さない。いつもの事だろう。恐ろしい光景だったが、おれは沈黙の傍観者になるしかなかった・・・。

 

贅沢品!

昨日のコースをトレース。新たな感動は特別ないが、やはり楽しい。夢中で撮影。昨日と同じ場所で一休み。モダマ男がオレの腕時計を見て、幾らかと聞いた。さあ、幾らと答えようかと言いあぐねたが、割と正直に$200と答えた。「フュ〜!」と、驚きの声が二人から同時に漏れた。何処の国でもカメラや時計の値段を聞かれると、爺さんから貰った事にして値段は答えないようにしている。本当の値段を言えば面倒臭い事になるし、身なりは汚くても金持ちと思われるだろう。幸い、カメラは古いものだし、時計もアナログだ。古い大事な物で値段は付かない事にしておくのが無難だ。今回あえて正直に答えたのは、社会主義と資本主義の違いを指摘しようと思ったからだ。言葉通じないのにね。時計は確かにこの国にしてみれば高価だが、わしらの国では時計だけじゃなく全てが高価だと、相対的にはそんなに金持ちじゃないと言ってみた。教育にも医療にも金が要るとも付け加えた。この国ではそれらは無料だからね。モダマもガイドもシステムが違うことは充分に理解しているようだ。だが、時計やカメラやオーディオやパソコン、車など、贅沢品にアクセス出来るわしらの世界は眩しく映るようだ。それが、どれほど眩しくて羨ましい事なのかわしには知る由も無いが、大好きなヨドバシカメラやビックカメラより眩しいはずだ。話しがややこしくならないうちに、金では味わえないインディオプールへ行こうと、重い腰を上げた。

 

インディオプール!

またしても汗だくで、インディオプールに到着。素っ裸でインディオジャンプだ!不気味な洞窟も2度目なら怖くも何ともない。楽しい遊び場だ。イケメンガイドに、一緒に泳ごうと誘うと、シャツだけ脱ぎ捨て飛び込んで来た。なんだよ、男ならち○こ見せろよ!と思いつつ、仲良く泳ぐ。モダマ男は火炎ビン係だ。しっかり照らせよ!シメは暗い洞窟で記念撮影。岩を三脚代わりに無理矢理撮影。露光時間が長いお陰で、絵のような写真が撮れた。写真コーナーにあるから探して見るべし!

 

絶景!

みんなと別れ、赤い土の帰り道。昨日から気になっていた坂道を上ることに。帰り道とは180°反対だ。100m以上続く急勾配を登り切ると、待っていたのは最高の景色と、怪しい二人組。眼下に広がるナイスヴュ〜に充分満足だが、もっとナイスを目指せと二人がしつこい。一日歩き倒した足に更なる試練を与えるのは忍びないが、興味が無くはない。後1時間半もすれば晩飯だ。間に合うように帰れるかが大いに気になるところだが、すぐだと言うから付いて行く事に。腕時計の針を指しながら、「本当にすぐなんだな!もう、足が痛いんだからな!晩飯待ってるんだからな!」と念を押しながら前進!山の中の一本道は、単調に延びている。グル〜っと回ってインディオ洞窟の上に出るんじゃたまらんな〜と、方角と距離からトホホな結末を導き出した。さぁ、どうなる!

 

寸止め!

何を導き出そうがおかまい無しに進んで行く。5分が10分になり、20分になり、結局30分歩いてやっと到着だ。しかも、ただの民家。勝って知ったる態度で、門らしき木のゲートをくぐり奥へ。自分の家のような振る舞いで通り過ぎて行くわしらに、家主のばあちゃんが何やら叫んでいる。「もう、今日はお仕舞いだよ!」「わかってるよ、ちょっと行くだけだよ〜!」(勘)なんてやり取りだろうか?かなり広い敷地では、鶏や羊、ブタなどの家畜が半ば野生化し自由に歩き回る。さっきのやり取りが気になるが、もうそこには海の気配。海の見渡せる崖っ淵へ向かっているのだ。やっぱり、予像通りだ。が、ここで別の男が登場。「もうお仕舞いだから帰れ!」(勘)と今度はハッキリキッパリ言われてしまった。なんだこの寸止め野郎!と予定外に長く歩かされた事への腹立ちと共に怒りが込み上げて来た。あの坂道まででさえも、30分かかるじゃないか。東京の人間は30分も歩かないんだよ。そこからは更に橋を越えて、長いビーチをず〜と歩いて1時間半はかかる。何か急に気が遠くなって来た。お前等とはもう歩きたくない。先に帰れと、面倒臭そうに手ではらった。ひとり、人気の無い赤い一本道。本当に夜になってしまえば恐怖の一本道だろうが、夕方なら中々の風情だ。間抜けな二人組の背中を遠い先に見ながら、怒りも修まれば、余計にそう感じられる。時折すれ違うチャリンコのガキやロバ兄ちゃん、薪を運ぶ爺さんなど、登場人物もイカしてる。何処へ繋がっている道なのか。思い出したように現われては、すれ違って行く、この時代設定不明の人達に静かな満足を感じた。それは、確かにひとつの絶景に違いない。 

しかし、疲れた。そして、腹が減った。

 

精神的指導

ホセ・マルティ(Jose Maruti.1853-1895)、この馴染みの薄い名前をご存知だろうか?今日は朝からこの男の誕生日で、街はお祭りムード一色だ。キューバは、大雑把に言うと二つのの大きな敵との闘いによって、独立を勝ち取った。二つの大きな敵とは、スペインと米国。米国からの独立は、カストロやゲバラの活躍で成し遂げられた。こちらもう説明はいらないだろう。しかし、スペインからの独立物語を知る人は少ないのではないだろうか?ハバナの国際空港の名前にもなっているホセのおっちゃんは、ゲバラやカストロを凌ぐ程の尊敬を今でも集めているそうだ。キューバを独立に導いた、精神的指導者だそうだ。どうだ、凄いだろ!と、机のひとつでも叩き付けたい気分だが、わし自身も不勉強で名前すら知らなかった。「地球の歩き方」のコラムで知った程度だ。で、このホセのおっちゃんの誕生日の模様は次回で!